2023/08/03
碌山美術館に行ってきました。最寄の穂高駅周辺も少し散策してみました。
そのときの写真です。
2023/04/01
昨年散歩したときの写真です。名古屋の中川運河と浜名湖の周辺です。
2023/01/04
以前の日記から間が空いてしまいましたが、雨庭の計算をしてみようと思います。まずは現状の針崎の住宅を例に、どのくらい雨水の流出抑制が期待できるか確認してみます。
ここでは、島谷ら(文献1)の方法を参考に、敷地からの1時間あたりの流出高(mm/hr)を計算してみようと思います。この方法で計算できるのは、あくまで「推定流出高」ですが、敷地からの流出がどの程度か、おおよそ分かるのではないかと思います。
下の画像は針崎の住宅の敷地を示した図です。
これを「現状プラン」とします。屋根、土間コンクリート(土間コン)、土・植栽、砕石の4種類で分けています。このうち貯留・浸透機能を持つ雨庭に相当するのは土・植栽と砕石です。屋根に降った雨水は、樋から配管によって下水道に放流しています。土間コンへ降った雨水はそのまま道路側溝へ流出することにします。
現状プラン
現状プランでは、敷地の北東角部分を植栽にし、南側は土の部分を残しています。その他は砕石敷きがメインの駐車スペースとしており、土間コンの面積は最小限にしています。
針崎の住宅の計画段階では流出抑制のことは考えておらず、土間コンの面積を最小限にしたのは、コストを抑えるためでした。結果的に、流出抑制が期待できる部分(土・植栽、砕石)の面積は、敷地面積に対して57.7%となり過半となっています。
現状プランの土間コン面積は、一般的な住宅と比べるとかなり小さいと思われます。そこで比較のため、土間コンを広めにした場合も想定してみることにしました。「土間コン広めプラン」と呼ぶことにします。土間コン広めプランの敷地を下の図に示します。
土間コン広めプラン
土間コン広めプランでは、東側と南側のほとんどを土間コンにしています。土間コン広めプランの、流出抑制が期待できる部分(土・植栽、砕石)の面積は、敷地全体に対して11.4%であり、現状プランからかなり減少しています。
土間コンが少ない現状プランと、土間コン広めプランの流出高をそれぞれ計算して、比較してみようと思います。
流入量を計算するのに必要な対象降雨は、岡崎市の総合雨水対策計画(文献2)を参考に設定します。これについては、2022年3月12日のmemoでも触れました。今回は対象降雨を70mm/hrにして検討してみようと思います。
岡崎市の計画では、河川・下水道の整備目標の降雨は50mm/hrです。70mm/hrの雨が敷地に降ったとき、敷地からの流出高が50mm/hrより小さければ無理なく河川や下水道に流すことができ、50mm/hrより流出高が大きければ河川や下水道の能力を超えてしまう(水があふれる)、ということになります。
ここからは具体的に計算してみたいと思います。まず、現状プランの場合の推定流出高を計算してみます。
敷地への流入量は、対象降雨×敷地面積とします。計算すると、流入量は下の表のようになります。
つづいて貯留・浸透部分の計算です。
土・植栽部分については、水やりや通常の雨のときに表面から流出することはなく,水が浸透していくのを確認しています。ここでは、土・植栽部分は表面から浸透するものとし、貯留はなしと仮定します。土・植栽部分の面積×浸透能で浸透量を計算します。浸透能の値は、2022年3月30日の日記で求めた、45mm/hrを使います。
砕石部分は厚さ100mmで、間隙率40%(文献1)とします。貯留量は砕石部分の面積×厚さ×間隙率、浸透量は砕石部分の面積×浸透能とします。
貯留量と浸透量を計算すると下表のようになります。ここでは、貯留量と浸透量の合計を流出抑制量と呼ぶことにします。
流入量から流出抑制量を引いて流出量とします。そして、流出量を敷地面積で割って、推定流出高を求めます。その結果は下の表のようになります。
現状プランでは推定流出高は31.1mm/hrとなり、河川・下水道整備目標の50mm/hr以下になりました。このように現状プランでは、流出抑制がある程度期待できる結果になったと思います。
次に、土間コン広めプランを計算してみたいと思います。土間コン広めプランでは、土・植栽および砕石部分の面積が、現状プランに比べてかなり少なくなっています。現状プランと同様に、推定流出高を下の表のように求めました。
土間コン広めプランの推定流出高は62.6mm/hrとなり、50mm/hrを上回りました。対象降雨が70mm/hrですので、流出抑制効果はほとんど期待できないことが分かります。
今回計算してみて、砕石敷きの面積を広めにとることができれば、厚さが100mm程度でも、ある程度の貯留量・浸透量を確保できる可能性があることが分かりました。土間コンの面積を抑え、砕石敷きにすることでコスト低減にもつながりますので、導入しやすい手法なのではないかと思います。流出抑制効果をより高めたいのであれば、砕石層を厚くするなど調整もしやすいと思います。部分的に深い砕石層をつくってもいいかもしれません。
雨庭は砕石と植栽を組み合わせて、魅力的な庭としてつくることもできますし、そうすることが望ましいとは思います。ただ、個人が建築主の戸建て住宅では、予算の都合などで難しい場合もあると思います。まずは、「駐車場は土間コンを小さめにして、砕石敷きをメインにする」、「土の部分もある程度残しておく」など、取り組みやすいことから手をつけてみるのも、よいのではないでしょうか。
参考文献
1. 大目雅公, 田浦扶充子, 森山聡之, 島谷幸宏: 流出抑制型の雨庭の開発と効果検証, 土木学会論文集B1(水工学), Vol.76, No.2, I_799-I_804, 2020.
2. 岡崎市総合雨水対策計画, 平成28年7月, https://www.city.okazaki.lg.jp/1550/1566/1635/p020024.html, 2023年1月3日閲覧.
2022/12/12
これまでの「日記」と「図書室」を統合して、「memo」のページを作成しました。日記と読書の感想を分ける必要もないかなと感じていましたし、日付や内容にこだわらず、書こうと思ったときに書きたいことを書いた方が自分には合っている気がするので、「memo」とすることにしました。2021年以前の「日記」と、これまでの「図書室」は上記からリンクしています。ちょっとしたことから、ある程度まとまったものまで、ここに書いていこうと思います。
2022/11/13
10月にジャン・プルーヴェ展に行ってきました。美術館のある深川・清澄白河周辺も歩いてみました。
2022/03/30
豪雨の際、雨庭のおもな役割は雨水を貯めることと、水を土に浸透させることです。どのくらい雨水を貯められるか(貯留量)は、雨庭の面積と深さ、そして砕石であればすき間の比率(間隙率)でおおよそ分かります。水がどのくらい浸透するかを計算するには、その地盤がどのくらい水を浸透させる能力があるのか、いわゆる浸透能を知る必要があるようです。浸透能は、文献や行政が示している値もあるようですが、現地で実際に測ってみるのがよいと思われます。
針崎の住宅でも浸透能を測ってみることにしました。測り方の参考にしたのは島谷ら(1)の方法です。島谷ら(1)の浸透能の計測方法は簡単にできるものだと思います。ただ、詳細な方法までは書いてありませんので、かなり自己流になってしまいましたが、とりあえずやってみました。ここでいう浸透能は、1時間あたりに浸透する水の高さです。
私がやってみた浸透能の計測方法です。計画しようとする雨庭の場所に穴をほって、筒を2重にしてその中に入れます(※1)。そこに100mmの高さまで水を入れます。そして水位の変化を見ていきます。
水位の計測について、島谷ら(1)は2つの方法を示しています。ひとつめは、100mmの水が浸透しきるまでの時間を計測して初期浸透能に換算、そのあと再度水を浸透させ6分間の水位の変化から最終浸透能を換算する、というものです。ふたつめは、はじめの100mmの水が30分経過しても浸透しきらない場合です。この場合は、その後の10分間の水位の変化から換算し、最終浸透能とします。
今回は、30分では100mm分が浸透しきらなかったので、ふたつめの方法で最終浸透能を計測しました。2つの地点で計測しましたが、どちらも30分では浸透しきりませんでした。
針崎の住宅で今回計測した2点の結果を平均して、最終浸透能は45mm/hrとなりました。
島谷ら(1)の最終浸透能の計測結果を見てみます。雨庭の底の地盤で計測したようですが、一部に重機がのってしまい、土が締め固まった部分があるようです。締固め前の最終浸透能は140mm/hr、締固め後の最終浸透能は20mm/hrと差がでています。雨庭の計画は20mm/hrを使って行ったようです。導水テストも実施していて、その結果から逆算した浸透能は229mm/hrとなり、設計に使った値よりかなり大きい値が推定さたようです。このように、浸透能を計測し確定させるのはなかなか難しいことのようです。浸透能の値がバラついた場合には、小さい方の値を使って雨庭を設計しておくがよいと思われます。また、雨庭は面的にひろがりがあるものですから、なるべく多くの地点で浸透能を計測するのがいいのかもしれません。
とりあえず浸透能を計測することができました。この計測値を使って雨庭を設計してみようと思います。
参考文献
(1) 大目雅公, 田浦扶充子, 森山聡之, 島谷幸宏: 流出抑制型の雨庭の開発と効果検証, 土木学会論文集B1(水工学), Vol.76, No.2, I_799-I_804, 2020.
注記
(※1) 少なくとも、入れる水の高さ以上は掘って筒を埋めないと、筒の横から水が染み出てきてしまいます。私は200mmくらい掘って筒を入れました。本来であれば、計画の雨庭の底の高さまで掘って浸透能を測るのがよいと思います。また、なぜ筒を2重にするのか、文献(1)や関連の文献を読んでもよく分かりませんでした。やってみて思ったのは、2重にすると、中の筒と外の筒の間の水は若干土の濁りがでますが、中の筒の水はほとんど濁らないことです。このことが計測に影響するのかはよく分かりません。
2022/03/12
針崎の住宅でも雨庭を設計してみて、できれば作ってみたいと思っています。
しかし、どのように雨庭を計画したらよいのでしょうか。
イギリスやアメリカで取り組まれてきた「rain garden」などの雨水流出抑制の方策を参考に、日本では「雨庭」として整備する事例が増えてきたようです。雨庭が日本で注目されだしたのはごく最近のようですが、設計手法の報告も出てきています。島谷ら(1)は、戸建て住宅程度の規模で実際に整備された雨庭を対象に、雨庭の設計方法や流出抑制の効果を検討しています。
島谷ら(1)は雨庭の設計目標を明確にしています。それは、自治体の下水道整備目標の降雨を上回る量の雨水を敷地内で全量処理する、というものです。言い換えれば、敷地からの流出量を下水道整備目標の降雨以下にするということです。
下水道整備目標を上回る豪雨があった場合、一般的な建物(樋の水は側溝や下水道に直接排水、駐車場はコンクリートで、ほとんどの雨水が敷地外へ流出してしまう状況)の場合、下水道には計画以上の雨水が流入し、河川や下水道への負荷が大きくなってしまいます。
そこで、下水道整備目標を上回る分の降雨は敷地の中で受け止め、敷地の外には下水道整備目標以下の雨水しか流さないようにする、ということだと思います。
雨庭の設計にあたり、目標があると計画の目安になりますし説得力も出てきます。島谷らの目標設定の仕方は一例ですが、この目標は分かりやすく、現実的でもあると思います。
例えば岡崎市でこの目標を設定するとどうなるでしょうか。
岡崎市は総合雨水対策計画(2)のなかで、河川・下水道施設の整備目標の降雨を50mm/hr(時間最大雨量50mm)と定めています。さらに、70mm/hrの降雨に対しては、河川・下水道施設とともに雨水流出抑制や水害リスク回避といった施策を組み合わせることで対応する、としています(※1)。
岡崎市の計画にもとづいて雨庭の設計目標を設定すると、「70mm/hrの降雨に対して、20mm/hr以上を敷地内で貯留または浸透させ、敷地からの流出量を50mm/hr以下にする」ということになると思います。
島谷ら(1)は、対象地の福岡市の下水道整備目標59.1mm/hrに対して、雨庭の設計の対象降雨を100mm/hrとし、その差を敷地内で貯留・浸透させることにしています。
対象降雨をどう設定するかが雨庭の設計に大きく影響します。岡崎市の場合には、70mm/hrの降雨に対しては流出抑制策などを付加して対応するとしており(※2)、まずはこれを対象降雨と考えればいいのかなと思います。雨庭の能力に余裕がありそうなら、島谷らのように100mm/hrやそれ以上の降雨を対象にすればいいと思います。
針崎の住宅でも、この目標にもとづいて雨庭を設計してみようと考えています。
参考文献
(1) 大目雅公, 田浦扶充子, 森山聡之, 島谷幸宏: 流出抑制型の雨庭の開発と効果検証, 土木学会論文集B1(水工学), Vol.76, No.2, I_799-I_804, 2020.
(2) 岡崎市総合雨水対策計画
(https://www.city.okazaki.lg.jp/1550/1566/1635/p020024.html)
注記
(※1) 岡崎市の総合雨水対策計画においては、年超過確率1/5の降雨(50mm/hr程度)を河川・下水道の整備目標、年超過確率1/30の降雨(70mm/hr程度)を雨水流出抑制・水害リスク回避の目標にしています。これは愛知県の一般河川の当面の整備目標(年超過確率1/5の降雨)、将来の整備目標(年超過確率1/30~1/50の降雨)にそれぞれ対応していると思われます。愛知県の河川の整備状況から分かるように、当面の整備目標に対してですら整備率54%というのが現状です。実際には将来の整備目標の達成はかなり困難でしょう。岡崎市は、愛知県の当面の整備目標程度の降雨に対しては河川や下水道の施設整備を行うが、将来の整備目標程度の降雨に対してはその他にできることもやって対応しよう、と考えているのかもしれません。
(※2) 岡崎市総合雨水対策計画では、70mm/hrを超える降雨として、既往最大の146.5mm/hrの降雨を設定しています。この降雨に対しては「人的被害ゼロ」を掲げ、避難体制を強化するとしています。70mm/hrまでの降雨に対しては河川・下水道施設やまちづくりがメインとなって床上浸水の被害を防ぎ、それ以上の降雨に対しては氾濫や床上浸水も覚悟し、人命最優先で積極的な避難を行う、ということだと思います。
2022/03/11
矢作川の浸水想定について調べたのをきっかけに、住宅でもなにかできることはないかと考えています。
治水について調べているなかで、降った雨をできるだけ河川や下水道に流さない、流すにしても洪水のピークの流量を下げたり、ピークを遅らせたりすることが重要だと知りました。
都市において道路や宅地の整備が進んでいくと、建物や舗装で覆われる場所が多くなります。そしてそれまで田畑、森や林、原っぱだったような土地が減少していきます。田畑や森に降った雨は、全部ではないにしろ、地表面に浸透したり溜まったりしますので、水の流出は穏やかになります。
その一方、市街地では雨水が流出しやすくなります。建物の屋根に降った雨はほぼ全量が側溝や下水道に流れます。屋根には樋がついており、樋は配管で側溝や下水道につながっているためです。また、駐車場なども舗装してあると降った雨が流出しやすくなります。
建物の敷地から流出した雨水は、道路の側溝や下水道に集まり急速に河川へ流れていきます。そのため市街化が進むほど、洪水の際に河川の流量のピークが大きくなり、ピークに達する時期も早くなる傾向があるようです。
河川へ流れ込む雨水が多くなり、計画の流量を超えた場合、最悪の場合には堤防から水があふれてしまいます。また、側溝や下水道の排水能力を超えることで水があふれ、浸水することも起こり得ます。
河川では、ある流量の洪水を想定して堤防などが整備されますから、それ以上の洪水の場合に堤防がきれるのは仕方のないことです。また、河川の整備は長期間にわたるものであり、整備が未完了の河川が多いことにも注意しないといけないと思います(1)。
河川の整備だけに頼るのではなく、豪雨の際に河川や下水道へ流れる雨水をできるだけ少なくすることが大切なのだと思います。
住宅でもできることはあると思います。
それは降った雨をなるべく敷地の外に出さないようにすることです。
「雨庭(rain garden)」と呼ばれる取り組みがあるようです。雨庭の効果のひとつに雨水の流出を抑えるということがあります。建築の場合では、樋の雨水を側溝や下水道に直接排水するのではなく、いったん庭に流したり、駐車場を砕石にしたりすることで、雨水を敷地内に貯めたり土に浸透させ、敷地の外へ流れ出る水を少なくしようというものです。建物の敷地だけではなく、道路にも用いることができ、京都市では歩道の一部に雨庭を整備する取り組みを行っているようです(2)。
私が雨庭をいいなと思ったのは、手軽に取り組むことができそうだからです。駐車場を砕石にすることは容易ですし、土間コンクリートに比べコストがかかるようなものではないと思います。庭については、植栽をしつつ、雨水の貯留と浸透を行うのに工夫が必要かもしれませんが、従来の庭づくりの延長で可能ではないかと思います。
参考
(1) 愛知県建設局河川課 河川整備目標・整備状況について
(https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kasen/kaisyu-kasen-seibi-mokuhyo-h30.html)
愛知県河川課のホームページによれば、令和2年度末における県管理河川の整備率は、当面の目標の降雨に対して54%です。愛知県では、河川整備の目標の降雨は「将来の整備目標」と「当面の整備目標」という2段構えになっています。一般河川に対する将来の整備目標は年超過確率1/30~1/50の降雨、当面の整備目標は年超過確率1/5の降雨となっています。
(2) 京都市建設局みどり政策推進室 雨庭の整備実績
(https://www.city.kyoto.lg.jp/menu4/category/57-19-2-0-0-0-0-0-0-0.html)
2022/01/22
矢作川の「洪水浸水想定区域図」を見てみようと思います。下の図は、針崎の住宅周辺の洪水浸水想定区域図(想定最大規模)です。
針崎の住宅周辺の洪水浸水想定区域図(想定最大規模)(※1)
上の図で黄色や赤色がついているところが、浸水が想定されている場所です。赤くなるほど浸水深が深いという想定です。わたしはこの図を針崎の住宅の計画の初期段階で一度確認しました。そして、計画がほぼ固まりつつあった時期に、銀行とやりとりするなかでこの洪水浸水想定区域図が話にでてきました。
住宅を新築や購入する際、火災保険と地震保険に加入します。火災保険には、水害による損害に対する補償をオプションで加えられるようになっています。銀行に火災保険と地震保険の見積を依頼した際、担当の方から矢作川の浸水想定区域内なので水害の補償も付けた方がいいですよ、とアドバイスを受けました。
このとき銀行もハザードマップを確認していることを知って、少々驚きました。銀行なので、資産価値に影響しそうな事柄は調べることになっているのかもしれません。災害に対する意識が高まってきていることを実感しました。
「洪水浸水想定区域(想定最大規模)」は、水防法第14条にもとづいて指定される区域で、想定し得る最大規模の降雨(「想定最大規模降雨」)によって、対象の河川が氾濫した場合に浸水が想定される区域のことです(※2)。矢作川では想定最大規模降雨を48時間総雨量683mmとして洪水浸水想定区域図が作成されています(※3)。
上の図から、氾濫平野の大部分で浸水が想定されていることが分かります。また、台地の一部でも浸水想定区域になっている場所があるようです。針崎の住宅の敷地とその周辺は0.5~3.0m未満の浸水が想定されています。
洪水浸水想定区域図(想定最大規模)のほかに、洪水浸水想定区域図(計画規模)も作成されています(※3)。これは「計画降雨」により河川が氾濫した場合に想定される浸水想定区域を図にしたものです。下の図は針崎の住宅の周辺の洪水浸水想定区域図(計画規模)です。「計画降雨」とは、ダムや堤防など河川の構造物を整備する際に目標とされる降雨のことです(※5)。想定最大規模降雨より小さく、矢作川では48時間総雨量321mmとされています(※4)。
針崎の住宅周辺の洪水浸水想定区域図(計画規模)(※4)
想定最大規模の浸水想定と比べると、浸水深が浅くなる区域が多いことが分かります。また、氾濫平野の大部分が浸水するのは同様ですが、台地はおおむね浸水がないようです。このように、降雨の大きさによって浸水する領域や浸水深が変わってくるようです。
はじめて想定最大規模の浸水想定を見たとき、浸水想定区域の大きさに言葉を失いました。すでに市街地や住宅地になっている場所や、これから開発される場所も浸水想定区域に含まれています。近年の水害で、浸水が想定されていた区域と実際に浸水した区域がおおむね一致していた、という報告をよく耳にします。ある条件にもとづいた想定であるとはいえ、矢作川についても、この広大な範囲で浸水が起こっても不思議ではないのでしょう。厳しい現実を突きつけられた感覚がします。想定最大規模の浸水想定を前にして、住民として建築設計者として一体どうしらいいのか、戸惑っています。
どうして「計画降雨」と「想定最大規模降雨」に対する浸水想定がなされているのでしょうか。
「計画降雨」は「基本高水の設定の前提となる降雨」のことで(※5)、これにもとづいてダムや堤防などの河川の施設が設計されます。つまり、計画降雨によって生じる洪水に対して堤防から水をあふれさせない、ということを目標に河川整備が行われてきたようです。言い換えれば、計画降雨による洪水を安全に流すには、計画どおり施設が完成していることが前提となります。しかし実際は、河川の施設をすべて完成させることは難しく、整備が完了していなかったり不十分な河川も多いようです。
さらに、東日本大震災などをきっかけに、最も厳しい状況を想定して災害に備えることが大切である、という認識が広まってきました。河川についても、近年の豪雨災害や地球温暖化の影響なども考慮して、考え得る最大規模の降雨を想定する必要がでてきたようです。国は平成27年の水防法改正で「計画降雨」を上回る「想定最大規模降雨」での浸水想定をすることにしました。
河川だけではなく、都市計画や建築も無関係ではありません。社会資本整備審議会河川分科会の平成27年12月の答申(※6)では、《「施設の能力には限界があり、施設では防ぎきれない大洪水は必ず発生するもの」へと意識を変革し、社会全体で洪水氾濫に備える必要がある》とされています。
堤防など河川の施設のみで氾濫を防ぐことの限界を認め、氾濫した場合を想定して河川の施設整備、まちづくり、避難体制の構築などをしていく。そのように政策が転換されるようです。そのために、河川関連の法律だけではなく、都市計画関連の法律も改正されました。
都市計画の分野では人口減少への対応も課題となっています。最大規模の浸水想定と人口減少をまえに、どのようにまちづくりをしていけばよいのか。河川と人や社会との関係そして建築設計との関係をあらためて見直していく必要があると感じています。
※1 矢作川洪水浸水想定区域図(想定最大規模)
https://www.cbr.mlit.go.jp/toyohashi/bohsai/shinsui/yahagigawa/yaha_ks_max.pdf
一部を抜粋して作成。
※2 水防法、e-Gov法令検索、2022年1月22日閲覧。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=324AC0000000193
※3 国土交通省 中部地方整備局 豊橋河川事務所Webサイト、矢作川洪水浸水想定区域図、2022年1月22日閲覧。
https://www.cbr.mlit.go.jp/toyohashi/bohsai/shinsui/yahagigawa/index.html
このwebサイトによれば、矢作川の想定最大規模降雨は次のように設定されたようです。
≪年超過確率1/1000程度の降雨と、降雨の特性が似ている15の地域に日本を分け、それぞれの地域において観測された最大の降雨を比較して大きい降雨を採用する方法を用いている。 豊川、矢作川の想定最大規模降雨は、後者を用いて豊川で1日雨量604mm、矢作川で2日雨量683mmと設定≫(※あきらかな誤字は藤江にて修正)
※4 矢作川洪水浸水想定区域図(計画規模)
https://www.cbr.mlit.go.jp/toyohashi/bohsai/shinsui/yahagigawa/yaha_ks_keikaku.pdf
一部を抜粋して作成。
※5 水防法施行規則第2条第4号によると「基本高水の設定の前提となる降雨」のことを「計画降雨」と呼ぶことにしています。基本高水は治水計画で想定する洪水のことです。基本高水にもとづいて計画高水流量や計画高水位が設定され、堤防の高さなどが決まります。
矢作川の計画降雨や基本高水の設定方法などは下記より確認できます。
国土交通省Webサイト、河川整備基本方針、矢作川水系、基本高水等に関する資料、2022年1月22日閲覧。
https://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/gaiyou/seibi/pdf/yahagigawa-2.pdf
※6 社会資本整備審議会河川分科会、大規模氾濫に対する減災のための治水対策のあり方について~社会意識の変革による「水防災意識社会」の再構築に向けて~、平成27年12月答申、pp. 1。
https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/daikibohanran/pdf/1512_02_toushinhonbun.pdf
2022/01/06
雪がふりました。岡崎で日中に雪が降るのはめずらしいです。針崎の住宅と雪の様子を写真にとってみました。
道路や敷地に積もるほどではないです。分かりづらいですが、屋根にすこし雪が積もっています。
2022/01/04
京都国立近代美術館で開催中の上野リチ展(※1)を見に行ってきました。
上野リチ、フェリーチェ・リックス(「リチ」は愛称)は1893年ウィーンに生まれ、ウィーン工芸学校でヨーゼフ・ホフマンの教えをうけ、ウィーン工房で活動していました。おもにテキスタイルの分野で活躍したようです。リチは、当時ホフマンの建築事務所に勤務していた建築家上野伊三郎と出会い、結婚して2人で日本に移り住みました。リチと伊三郎は京都で建築事務所を開設し、ともに活動したようです。会場には、住宅や店舗の設計図面とともに、リチの色鮮やかな内装デザイン画が展示されていました。帰国後まもなく竣工した自邸兼事務所は、モダニズム的な外観で、内装はリチのデザインによる装飾(壁紙?)で覆われていたようです(※2)。戦後には伊三郎とともに京都市立美術大学(現在の京都市立芸術大学)で教鞭をとるなど、後進の育成にも力を注いだそうです。NHK日曜美術館のwebサイトのなかで、リチの教え子たちのコメントが掲載されています(※3)。
1920年代のウィーンで同じ師ホフマンに学んだデザイナーと建築家が出会い、日本において共働して建築やインテリアの分野でも活躍していた、ということを知ってとても興味深かったです。物語としてもすてきですね。リチの作品はどれもすばらしかったですが、とくに「花鳥図屏風」にみとれてしまいました。
上野リチ展のあと、あたりを散策しようと地図をみていたところ、近くに「夷川ダム」があることが分かりました。こんなところにダム?と思い、霧雨が降るなか、行ってみることにしました。琵琶湖疎水の施設の一部のようですが、なかなかおもしろかったです。またの機会にまとめてみたいと思います。
※1 上野リチ展特設サイト、2022年1月4日閲覧。
(https://lizzi.exhibit.jp/)
※2 笠原一人:上野伊三郎の建築活動について、日本建築学会計画系論文集、第75巻、第649号、pp. 727-736、2010。
※3 NHK日曜美術館 webサイト、コラム 教え子が語る“上野リチとはこんな人”、2022年1月4日閲覧。
(https://www.nhk.jp/p/nichibi/ts/3PGYQN55NP/blog/bl/p70PrXddo7/bp/pW7d98qynN/)
2021年12月19日放送の日曜美術館で上野リチ展をとりあげていました。